とものまち

もちろん

のんびりと

うっとり

らくてんち

ふくやまは

くらし

やすくて

まんてんだ

 


振り返るほどに音澄む寒夜かな

綾取りの橋に傾く冬日かな

水仙や文庫に残る走り書き

身にしむや渡れぬ橋のまたひとつ

何もかも沈めて海は冬になる

風花やどこかで女悪だくみ

駆け出した少年の背の赤い月

中年の入り口で見る流れ星

春愁や握りしめたる夜の数

傷口を見せまいとして青嵐

眼裏に住む人のあり広島忌

春めくや一本指で弾くピアノ

七草のやうやく揃ひ日の暮れる

三日月の切っ先にある憂ひかな

角砂糖三つ溶かせて山眠る

切なくて回り道して杏花雨

母の手の届く高さに花杏

紫陽花をプリズムにして思ふ人

花冷えや運命はいつも負へ動く

 

菫草静かに風を呼びにけり

夜の窓春になれない顔のある

蹴りたい石のない道を歩く

待つということの幸せ秋桜

病む窓にまた一つ描く昼の月

雨音を心音とする愁思かな

小夜時雨止まない雨もあるさうな

名月や互ひに少し老いて逢ふ

桜咲き一カラットの恋をする

御堂には母の居さうな暮れの秋

時計二分進めておいて夜の秋

とは言えど流れる星は海に果つ

 

 

 

 

月冴ゆる阿修羅の御手にのる心地

遠き日の震えて眠る寒薔薇

春愁や見知らぬ夜が目を開く

白雨もあなたの声も海辺より

花遊び続けたい手を包み込む

庭下駄の向きを揃える春の客

水仙の昼をなまめく便りかな

返信の行間に咲く山桜桃

蛍火や仮縫いの夜を解きゆく